藤田医科大学 救急総合内科教授の岩田充永先生には
月に一度当院のER症例振り返りカンファレンスにファシリテーターとしてお越しいただいています.
10月30日のカンファレンスはWebex Meetingsを利用してオンラインで開催されました.
今回は,研修医1年次H医師と専攻医H医師がそれぞれ症例提示しました.
〔症例①〕
50歳代の男性,レベル低下と脱力が主訴の患者さんです.訪問介護の担当者が自宅を訪れたところベッド近くで倒れているのを発見,救急要請しました.
搬送時,JCSはⅠ-1,血圧が低く,徐脈,体温も低下していました.アルコール依存症による肝硬変が既往にある患者さんでした.
H医師は血圧の低さがショック状態と判断,アルコールによる脱水の可能性とショックの鑑別を考えました.
岩田先生:意識障害の鑑別を考えていけばよいですが,患者さんの年齢や生活背景,バイタルをみると,いろいろな要素が複雑に絡み合ったケースかもしれないと念頭に置く必要がありそうですね.徐脈+ショックの場合にはどのような鑑別が考えられるでしょうか?
研修医のH医師は今回の症例を振り返って,徐脈+ショックの鑑別が十分にできなかったことが反省点です…と言っていました.
血液のデータから低血糖が明らかで,さらに急性膵炎が疑われ,補液,血糖の補正が行われました.その後ICUに入院となり,急性膵炎の治療によりバイタルは正常化したということです.
岩田先生より,肝硬変が既往にある患者さんの血糖補正の際の注意点と,コンサルテーションの仕方についてアドバイスをいただきました.
〔症例②〕
80歳代の女性,意識障害の患者さんです.施設入所中の方で,昼過ぎに突然顔面蒼白になり,倒れ込みました.要介護4ですが施設内では歩行器歩行でき,食事も自己摂取できる方です.
搬送時のGCSは3点.意識障害とⅡ型呼吸不全…挿管が必要となりそうだな…と上級医と相談しているところへ患者さんの入所している施設の方が到着されました.
施設の方によると,この患者さんは「人工呼吸器は嫌だ」という Living Will をお持ちの方でした.
専攻医のH医師は,現時点では患者さんの状態が不治であるかはわからない…ただ自発呼吸では直に呼吸停止してしまうだろう…どうしよう…と考えました.
ここで専攻医H医師より,カンファレンスに参加していた研修医のみんなに向けて質問が投げかけられました.
研修医の皆さんなら,どうしますか?
①何を言っているんだ!挿管するに決まっている!
②要はDNARでしょう?何もしなくて良いんじゃ…
③補助換気しながら,可能な範囲で原因検索をしよう
④(他の意見はありますか?)
CT検査によると気管内異物があり,気道閉塞が最も疑わしかったということです.ERでは意識レベルの改善はなく,いつ呼吸停止するかわからない状態でした.内科の医師により入院,Living Will 通りに侵襲的なことは行わない方針となりました.
患者さんは翌日,覚醒し会話可能になり,麻痺などの症状もありませんでした.誤嚥性肺炎の治療を行い,第11病日で退院し元の施設に戻ることができました.
岩田先生は「非常に深くて,難しいケースでしたね.今回の Living Will は不治かつ末期である場合に延命措置を施さないでほしいということであり,われわれ医師は患者さんを目の前にしたら救命できる疾患がないか原因検索の手を止めてはいけないし,救命できる方法がないか考えることをやめては決していけないですよね」と仰いました.
専攻医のH医師は,Living Will のはっきりしている患者の意識障害を経験し,延命を希望しないことと治療をしないことは同一ではないことを再認識できたと発表しました.カンファレンスに参加していた研修医のみんなもDNAR,Living Willについて改めて考えることができました.
1人ができる経験は限られていますが,こうして1人の経験を共有することで全員のレベルアップにつながります.
岩田先生,ありがとうございました.
卒後教育研修センター
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